第17章 愛にかわる苦しみと離別
考え事の整理を終わらせ、少しソファで横になり目を閉じた。少しだけ…眠らせて。
『あ、起きた?』
落ちる意識の中聞こえた、五条悟の声。ふわふわとした感覚で聞こえるこの声が、現実ではないことは薄々理解していた。けれど、その夢はあまりにも心地が良くてまだもう少し…。と私は目を閉じ続けた。
たった2ヶ月前のことなのに。悟と過ごした日々が恋しい。ああ、まだ起きたくないのに。目を閉じていても涙がこぼれ落ちる。歯を必死に食いしばるがそれでも涙が止まる様子はない。
『針、好きだよ。君が好きだ。』
『ずっと側にいるよ、言質取る?僕は構わないけど。代償はそうだな…針の旦那さんになるとかでどう?』
『………これからは、僕の名前を呼ばなくても針の側にいるよ。』
あの日、悟がくれた言葉が脳裏に浮かぶ。止まらない。感情が、溢れ出す。
「………うそつき…っ…。」
『帰ってくるよ、絶対。』
「うそつき…!!!」
言葉なんて形にしなければ、所詮まやかしにすぎない。私があのとき形に変えていれば…なんて。こんなことになるなんて想像もできなかった、五条悟のことを心から信頼していたあの頃の私が言質なんて取るわけがない。
…私が言質をかけたところで戦闘中に発生する膨大な呪力で無意識的に打ち消されるのがオチだしね。
「……は、」
あまりの滑稽さに泣きじゃくった私は笑うことしかできなかった。
ああしていたら、こうしていたら、なんて。もう過ぎたことだ。考えるだけ仕方がない。
あたたかい記憶を胸のずっとずっと奥に仕舞い込み、深呼吸をした。
すっかりと目が覚めてしまった私は、濡れた眼を袖で拭ってソファから立ち上がる。
「そろそろ行きましょうか。」
陽が落ちる前に。夜は呪霊が活発になる。