第17章 愛にかわる苦しみと離別
11月1日。当たり前に目が覚めた。カーテンを開けたまま眠りについてしまった為、高く登った日がえらく眩しい。
少しチカチカとする日差しに目を窄め、手のひらを見つめる。小さな擦り傷だらけだ。それももう瘡蓋で塞がり数日後には消えるだろう。
……………………棘。
恋人がいなくなった今、ふと過ぎるのは弟のことだった。声に出して名前を呼びたかったけれど今の状態で繊細な呪力コントロールは不可能のため迂闊に呟いて呼出すわけにはいかない。
言いたい言葉をぐっと飲み込んで、手のひらの傷を覆い隠すように拳を握った。
「…。」
私は…弱いから、何もできない。
大切な弟が今どうなっているかすらわからない。高専に保護されていることを願うことしかできない。それでも、この状況下でできることをしないと。………高専に向かうべきだ。
猪野もいるかもしれない。
…猪野が上層部についたとしたら?…いや、そんなはずはない。
彼は七海さんを尊敬していた。世界が崩壊したって、身の保障を得るために身内を売るような真似はしない。
何かない限り"こちら側"だろう。それに、5年以上はそれなりに関係性を築いていた。彼は簡単に誰かを裏切るような真似はしない人間だ。
…とにかく、悟がいなくなった今はお腹の中の子供の存在がバレると上層部に殺されかれない。バレないように行動しないと。
立ち上がると左の足首がズキズキと痛んだ。…知らない間に捻ってしまっていたようだ。2〜3日も休めば治るだろう。この傷が治り次第、出発する。