第16章 第16章 千の篇も一に律される
「お前も運がないな。」
私たちを庇うように現れる日下部さん。それから庵さん。
他は誰がいるのだろうかと辺りを見渡すと、悠仁くんの元にはパンダと加茂くんがいた。
それから謎の人物がさらに1名。…黒髪の彼は一体誰なのか。彼は、頬から鼻筋を通りまた反対側の頬に黒い一本の線が通っている。和装を身に纏ったその佇まいからは一般人ではないことは確かだ。…術師ではなさそうね。
只者ではなさそうな彼もまた、夏油傑の姿をしたそいつを睨みつけていた。
彼曰く、夏油傑の姿をしたそいつは加茂憲倫だそうだ。
…私でも聞いたことがある名前。名高い加茂家の汚点だと、幼い頃に直毘人さんから聞いたことがある。
……偽夏油を加茂憲倫と呼んだ彼は一体誰なのだろう…。
悠仁くんのことを弟?と思っているみたいだけど…。
「一応聞くけど、他人だよな?」
「他人どころか1回殺されかけてるよ。」
パンダと悠仁くんのこの会話を聞く限り、どうやら何かしらの勘違いが起きているらしい。しかし、突如現れた彼はやはり只者ではないようで、凄まじい戦闘能力を見せつける。
手を差し伸べ、座り込む私の手を引き起き上がらせると日下部さんはこう問いた。
「針、一応聞くが獄門疆を呼び出すことはできないのか?」
「呪具そのものの呪力が高すぎて無理ですね。というかたぶん呪力自体がシャットアウトされるようになってると思います。」
「…そうか。」
「残念ながらアイツを倒すしか奪い取る方法がないってわけ。」
立ち上がった私はナイフを強く握るためのグローブを呼び出した。指の間に布がしっかり密着するように裾を引っ張る。手を握り、まだ手に力が入ることを確認して、こちらを心配そうに見つめるパンダに向かって「大丈夫」と呟いた。
「全員でかかれば隙くらいできるだろ。なんとしても、獄門疆を奪い取るぞ。」