第15章 叫び喚いてもそこは地獄にかわりなし
はぁ。と七海さんは溜息をついた。もう随分と聞き慣れた溜息だ。これは"肯定"のときに大抵出る。
「……わかりました、では針さんはわたしに着いて来てください。追いつけないと思ったらすぐに言ってください。」
そして、予想通り七海さんは受け入れてくれた。
野薔薇ちゃんと明ちゃんと別れ、私たちはB5Fへ向かった。
「どうして無茶をするんですかさっきも言ったはずですあなたと子供に死なれでもしたら…」
…と思いきや、七海さんはどうやらこの道中で私を説得するつもりだったらしい。
あまりにも正論だが、私がいるべきというのもまた呪術師からすれば正論だ。
それに、お腹の子に関しては一つ確証があった。
「大丈夫です。私、実は妊娠してからあり得ないほどの激痛をもうすでに何度も経験してるんです。」
「……この反発するような呪力、悟に"呼出"を拒否されたときの副作用によく似ている。………この子、もう既に膨大な量の呪力があると思うんです。まだこの子5週目ですよ、こんなに小さいのに。」
恐らく膨大な呪力はこの子の防衛本能が働いている。その時に呪力が溢れ、母体の私に影響が出る。
危険に晒されたときにお腹の中の子は自身の呪力に包まれている。もっと都合よく解釈するなら、この子は五条悟の子供である。
防衛本能が働いて呪力を出しているということは…無下限呪術を無意識で使っている可能性がある。衝撃さえもこの子に触れることはできないのだ。
「だから、ちょっとやそっとの衝撃では死にません。」
七海さんを真っ直ぐと見据える私を見て、七海さんはまた大きく溜息をついた。
「正直、あなたがいれば助かります…。ですが、あなた達を死なせるわけにはいかないのも事実。何かあればわたしが全力で守ります。足手纏いになるとは思いませんが、危険を察知したら一目散に逃げることを優先してください。これが条件です。」
なんだか複雑そうな表情をしている七海さんを見て、本当にこの選択が正しかったのかわからないけれど私たちは禪院直毘人たちと合流するべく歩き出した。