第15章 叫び喚いてもそこは地獄にかわりなし
「知らない。」
奴がそう答えた瞬間、そいつは七海さんに蹴りを入れようとする。が、しかし七海さんはビクともしない。
その様子を見て、もうこちらに被害は来ないと安心した私は、医療キットを呼び出して彼女たちの応急処置をした。
「野薔薇ちゃん、あなたは大丈夫そうね。念のために遠くから七海さんの支援を。七海さんが無傷でいられるように。」
野薔薇ちゃんは、わかりましたと返事をすると少しだけ前に歩き、遠くからその戦いの様子を見守り自分が入る隙を伺っていた。
「明ちゃん、私が少しずつ"運ぶ"。動かないでいいから無理しないで。」
いっぺんに運ばないのは、明ちゃんをここに放置して万が一呪霊や他の呪詛師に見つかって攻撃されないため。
私は停止しているエスカレーターを駆け上って、てっぺんに着いた時に明ちゃんを呼び出した。それからソファのある場所へ辿り着き、痛み止めを用意して、包帯を綺麗に巻き直した。
「はは…やっぱ針さんは頼りになるっすね。」
「戦いにはほとんど役に立たないけどね。無事でよかったわ。」
それからすぐに七海さんと野薔薇ちゃんは私たちの元へきた。2人とも怪我が増えていない。おそらく予想通り圧倒した様子が見える。私は野薔薇ちゃんもソファに腰掛けるように促し、座る2人の横に立った。
「2人はここで救護を待って下さい。私は禪院さんたちとB5Fに向かいます。」
七海さんは私たちの向かいで膝をつき、着いていこうとする野薔薇ちゃんを嗜めた。
「これからの戦いは、わたしで最低レベルです。足手纏い、邪魔です。ここで待機を。」
…そうなるよね。と私が一歩前に出て「さていきましょうか」なんて言おうとしたその矢先、七海さんは私にも釘を打つ。
「針さん、あなたもです。」
…。
わかっている。私だって、わかっている。足手纏いになるかもしれない。
けれどそれは、戦いに参加した場合だ。
まだ無事な一般人の避難、敵の会心の一撃の回避など戦わずとも…むしろ戦わない方が私の能力は発揮される。呪術師として考えるなら、私を連れて行くべきだ。
七海さんは優しすぎる。
「さっきおとなしくついて行ったので、今度は私の我儘に付き合って下さい。」
だから、私は七海さんに物申した。