第15章 叫び喚いてもそこは地獄にかわりなし
ぽっかりと胸に穴が空いたようだ。と比喩するべきなのは、まさにこのような気持ちのことなのだろうか。
足元がおぼつかない。私はフラフラと少しずつ歩いた。
初めて味わった、絶望。
ああ、苦しい。
心臓に裁縫針が無数に刺さっているようだ。さっきまであんなに涙が出ていたというのにどうしてか涙は枯れてしまった。
皮肉なことに沸々と体の奥底から力だけが漲っているような気がした。こんなときでさえ、私の負の感情は呪力に変わる。いつもいつだって私の呪術は矛盾ばっかだ。やっぱり呪術なんて嫌いだよ、悟。
虚ろに歩く私が足を止めたのは聞き覚えのある声が聞こえたから。
「!?…針!!!!無事だったか!!!」
同期の猪野だった。
地面に顔を向けていた私は、その声で顔を上げるとそこには知った顔が何人かいた。私が口を開く前に、悠仁くんが私に声をかけた。
「針さん。」
「悠仁くん…。」
「二次方程式ax^2+bx+c=0の解の公式は?」
「え…………あ、えっくすいこーる2あるふぁぶんの、まいなすびーぷらすまいなするーとびーのにじょうマイナス4ac……。」
「正解!………ちょっと冷静になれた?」
この公式は勉強会をしていたときに、私が悠仁くんに教えたものだ。まさか覚えているなんて…。
どうして開口一番にこんな質問を、?と思ったがどうやら悠仁くんなりに私を宥めてくれたみたいだ。確かにさっきよりは少し落ち着いた気がする。考えるって大事だ。
「なんで知ってんだ…やっぱ変人だろ。」
「同期の人でもやっぱそう思うんすね。」
という猪野と伏黒くんの会話も聞こえて、少しずつぽっかりと空いていた心に再び火が灯り始めた。
うん、今度こそ本当に大丈夫だ。
今は一般人と五条悟を助けられる最善策を見つけて実行する。私ならできる。
「ちょうどよかった、針さん。あなたにも付いてきてほしいです。」