第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
彼の気持ちを想像せずに自分の中の勝手なイメージと感想だけで私は激怒して自分の感情を押し付けた。
これじゃ、私を虐げてきた同級生や家族と同じ…。
五条悟が今まで私たちに見せてきたその笑顔の裏には、どれほど大きな悲しみと辛さがあるのだろう。私には想像ができない。けれど、理解しようと努力はするべきだった。
力が入らない。よたよたと小さな足並みで先生の元へ歩く私。夜の静けさのせいで、裸足で歩く私のペタペタという足音だけが部屋に響く。先生の前で立ち止まった私は、真っ赤に腫れた目で先生を見つめ弱々しく呟いた。
「…………私は怒っているのに、先生は…何も言わない。」
弟を傷つけられた私は自分の感情だけを優先して先生に怒りをぶつけている。先生は私以上に傷ついているのかもしれないのに。まるで傷を抉るように私は先生に追い討ちをかけてしまっているのではないか。
「私だけが怒ってる、先生も傷ついているはずなのに。そんなの不公平。」
そんな私の言葉に先生は表情を一つも変えない。ただ口を開き淡々と、こう答えた。
「あいつは悪人だよ。」
と。