第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
私が何も言うまでもなく察した猪野は、少し気まずそうに間を空けてから私に質問をした。
この男は私が学生時代に不登校状態から急に登校したときも、気さくに話しかけてきて何気に一緒に過ごすことが多かった。
そのせいか察しも良く、ほどよい距離感で話しやすい。これが友達という存在なのかなと思うこともある。
「…うん。私ってまだまだだなと思って。結局何もできなかった。」
「いやいやいや、んなことないだろ。お前がそんだったら俺はどうなんだよ。」
「何言ってんの、猪野は十分に戦える能力あるでしょ。」
そう、猪野は降霊術を使ってきちんと戦えるものを呼び出せる。私は呼び出せても他人だけ。他人を頼ることしかできない。猪野は私のことを過剰評価しすぎている。
愚痴も混ざりつつお互いがお互いを褒め合い…と謎の沈黙が生まれてしまったが、猪野はポリポリと頭をかきながら苦笑した。
「……なんか俺らさ、いっつもこうやって傷舐め合ってんな。」
「言われてみれば…確かに……。」
過去のことをウダウダと本当に情けない。…というよりも馬鹿らしい。
「ぷっ、」
「ふふっ、」
強くなるには、未来を見据えなければいけない。どうして弱いのかを考えて次に活かさなければまた後悔する日が訪れるから。
愚痴たって傷を舐め合ったって、傷は治るだけ。糧にするには前を向かなきゃ。
「はぁ〜あ、そうよね。いつまでもこんなんじゃダメよね。」
「うしっ、いっちょ気合い入れますか。結局俺も七海さんと別地区の担当になっちまって推薦してもらう機会逃しちまったしな!!」
「気合い入れていきましょうか。」
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