第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
あれから数日。私はできるだけ仕事に取り組んだ。ひたすらに八つ当たりをするかのように呪霊を祓った。
ただ、私が怒っているのは傷ついた弟や後輩たちのためだけではなかった。きっと自分にも苛ついていた。何もできない自分に。
夏油傑が現れて、彼を倒したのは乙骨くん。
足止めしたのは後輩たち。
先生なら、夏油傑は東京に現れるとどこかで予想していたはずなのに、私は京都で待機していた。夏油傑が京都に現れた時対処できるようにと。
正しい選択なのかもしれないけれど、結果を言えば私はただ下級の呪霊を祓っただけ。
何もしていない。
私がもっと強ければ棘たちは犠牲にならずに済んだ。私が囮になれた。乙骨くんに全てを背負わせることはなかった。
何もできないまま弟たちは傷つき、そして五条悟…恩人にあんな顔をさせてしまった。
私は、弱い。
「…ーい、おーい。針〜?ったく、話聞いてやがらねえ。」
「え、あ…ごめん猪野。なんだっけ。」
イラつきで完全に自分の世界に閉じこもっていた私は、同僚である猪野琢真の呼び声でふと我に返った。
「もう帳下ろし終わってんぞ。お前らしくねえの。なんかあったのか?」
「あー…まぁ。」
「………………例の一件か?」