第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
百鬼夜行は思っているよりもずっと早く収束した。なんだこんなものか、とあまりにもあっさりしていたので拍子抜けしていたのだが、弟の棘が重傷を負ったとの連絡が入り私は慌てて東京へと戻った。
「……棘。」
早朝の早い時間、病室のベッドでまだ眠りについている弟の痛々しい姿を見て私は眉を顰めた。
私じゃ治せない。
どうしようもない自分に苛立って、扉を少し乱暴に閉めたい気分になったけれど、弟を起こすわけにもいかないのでそっと病室を出た。
すると、廊下には五条先生が立っていた。
まるで私が来るのをわかっていたかのように。
なんだか先生と話すような気分になれなくて、私は少し俯きながら口を開いた。
「……何してるの。」
「謝りに来た。」
「…誰に。」
「針に。」
少しずつ言葉を選んでいる私に対して、先生は少しの間を開けることなく答えていく。
淡々とした五条悟の態度に私はイラついて胸ぐらを掴む。
「…っ謝るなら、先にあんたの教え子にでしょうが!!!ふざけんな!!!!!!」
「……針も僕の教え子だよ。」
「そんな屁理屈は聞いてない!!……なんで、生徒を餌にするようなやり方しか思いつかなかったのよ…。」
棘が怪我をした経緯について乙骨くんから聞いたとき、なぜ五条悟は夏油傑の元にパンダと棘を送り出したのか疑問に思った。他に適任がいるだろうと。五条悟なりの意図があるのだろうと、学生の彼らを向かわせた理由を考えたとき、一つしか思い浮かばなかった。
私は掴んでいた先生の胸ぐらを話して胸板をコツンと弱々しく殴りつけた。
「…乙骨くんに力を使わせるための犠牲なら何をしたってよかったわけ…?」
「……あぁ、仕方ないと思った。」
「…っ……。」
「大っ嫌い…!!!」
私は涙が溜まった目で先生を睨みつけ、そのまま先生がいる方向とは逆に足早に歩いた。五条悟は、最低だ。