第42章 Lemon

結局、俺は組織とケリをつけようと思っていた日に、FBIから潜入していることがバレた。

そして明美とも連絡を取らないまま、1年が過ぎた頃、それまで音沙汰がなかった明美からメールが届いた。


「今度はちゃんと、彼氏として付き合ってくれますか？」


今度こそ…
やり直せるのか？

俺の本名も、素性も、全部正直に伝えて、今度こそ一緒に隣でいられるのか？

もし、あいつが組織から抜けられたら、すぐに迎えに行って、抱きしめて、それから…


そんなことを考えていた。

だが次の日、ジェイムズから呼び出されて伝えられたのはあまりにも残酷な現実だ。



「赤井くん。宮野明美くんが、殺されたよ」

「…え？」


脚が震える。

今更だったんだ。わかっていた。
やり直せるなんて、そんな甘いことありえなかった。
頭ではわかっているのに、身体が反応している。
息が、上手にできない。


自分が思っている以上に、あいつのことが好きだったのか？
1人の女として。
あの日も、あの日も、全部、宮野明美を俺は愛していた…？


帰り道、夜空を見上げると上からぽつり…ぽつりと雨が落ちてきた。
そして、すぐに土砂降りに変わり、俺の顔を全部濡らす。

永遠に答えの出ない問いの中、
俺の身体は沼に沈んでいく。

俺はまだ、返事すらしていない。
そして、言えずに隠していたことを何一つ伝えられていない。

この先、永遠に伝えられない。

死んでいく時、何を思った？
俺のことを恨みながら死んで行ったのか。

それとも、俺を愛しながら、死んでいったのか。

俺は、お前のことが好きだった。
好きだったんだ…


この日からあの組織を潰すことが俺の全てになった。