【R18】You belong with me 【赤井秀一】
第26章 アップルパイ ☆ ♪
「アップルパイってこんなに種類あるんですねー!」
そう言って店員と談笑している。
声は…別れて以来久しぶりに聞いた。
少し高くて、可愛い声だ。
電話口から聞こえるこの声も好きだった。
最後に聞いたのは、泣いている声だったから少し安心した。
「ちょっと電話して聞いてみますね」
サラは店員にそう言うと、電話をかけ始めた。
しばらくして、俺はサラの声を聞かなければよかったと後悔した。
「あ。もしもし?零?」
零…たしか安室くんの本名は降谷零だった。
名前で呼んでいるのか…
俺のことを名前で呼んだのはたった一晩だった。
俺は、必死にサラが俺のことを嫌いになればいいと思っていたが、買い被りで、そんなことをしなくてもサラは新しい恋を見つけていた。
「ねぇ、アップルパイどれがいい?
……それが、違うの!
いろんなアップルパイがあるの!」
楽しそうに、電話の向こうのバーボンに話しかけている。
「んーと、わたしはシナモンのアップルパイか、ヨーグルトのアップルパイで迷ってる。
え、ほんと?やったー!
じゃあその二つにする!
今日何時に帰る?
夜一緒に食べようね」
サラはじゃあまたね。と言うと電話を切った。
ほんの数ヶ月前まではその電話の相手は俺だった。
サラとアップルパイを食べるのも俺だった。
甘いものは得意じゃないが、もし今サラと一緒に食べられるなら、俺は喜んで食べる。
やり場のない喪失感を感じた。
「アップルパイはアップルパイだろ?って!
何をそんな悩んでるの?って言われました。
あ、シナモンとヨーグルトください」
「ふふ。はい。旦那さんですか?」
「…恋人です」
サラはにこっと笑って幸せそうにそう言った。
これは罰だ。
あのとき、サラに残酷な仕打ちをしたその罰。