第75章 オレンジ

「おーい、出来たぞー」

「わぁー！昴さんのビーフシチューだ！」

「美味しそうですねぇ！」

「おかわりもあるか？？」

「ほら、あなた達ちゃんと座って食べなさいよ？」


沖矢昴としてのいつもの情景。
それを眺めていると、ボウヤが俺を下から覗き込みながら心配そうに言った。


「めずらしいね、昴さんがボーッとするなんて」

「…少し寝不足でね」

「心配だよね」


ボウヤの目が、まるで大人の目になって俺を見ながら続ける。


「蘭姉ちゃんも、記憶を無くしたことがあるから…よくわかるよ」

「ホォー。その時はどうやって元に戻ったのかな？」

「新一兄ちゃんとの思い出の場所に遊びに行ったんだ。その時、記憶を無くすきっかけになった事件を思い出す瞬間があったんだって」

「思い出の場所…か」


それも、一理あるな。
何となく、一緒に元の生活をしていたら自然と思い出してくれると思っていたが、しばらく経っても記憶が戻らないと言うことは他のアクションを取った方がいいらしい。

サラとの思い出の場所と言えば、やはりあそこだろうか。
そこに一緒に行けば、思い出してくれるのか？

けれど、もしそこに行っても思い出してくれなければ、俺はどうしたら良いかわからなくなる気がする。

俺は大切な思い出として心にしまっているのに、サラの心からは抜け落ちてしまっている。

そんな過酷な現実に、俺は耐えられるのだろうか。

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