【R18】You belong with me 【赤井秀一】
第73章 アイラブユーを探してる
俺はカタンとパイプ椅子から立ち上がった後、帰ると見せかけて棚の上のリンゴとナイフを手に取り、また椅子に腰を下ろした。
そして何食わぬ顔でスルスルとリンゴの皮を剥き始めた俺を見て、サラが怪訝そうな顔で言った。
「あの、だから大丈夫って…」
「俺が食べたくなったんだ。リンゴを」
「…えっと。名前、何でしたっけ?」
赤井さん
ほんの少し前まで当たり前のようにそう呼んでいたくせに。
たまに秀一と呼んでくれるのが、心から嬉しかったんだよ、俺は。
そんな憤りをひた隠しにして、俺は自分の名前を伝えた。
「赤井秀一」
「赤井秀一さん。社交辞令って知ってます?」
「…まあ、人並みには?」
いきなり真顔で何か言い出したサラ。
俺はリンゴを剥きながら首を傾げる。
「さっきの、大丈夫です。って言うのは、もう帰ってください。って意味なの。わかります?」
むーと少しだけむくれた顔をしながら言うサラ。
何だ…本当に何も変わっていない。いつものちょっと不満げなその膨れっ面。
俺を忘れたこと以外は、サラのまんまだ。
「居たいんだ」
「え?」
「帰ってくれと言う意味だとわかっていた。
でも、俺はここに居たい。」
「…どうして?」
意味がわからないです。と言わんばかりに眉を顰めて首を傾げるサラ。
お前が好きだから
答えはこんなにも簡単なのに、届かない。
「リンゴが食べたいから」
「…へんなひと」
意味不明なことを言って居座ろうとする俺を見て、諦めたようにそう言って笑ったサラ。
1秒後には、1分後には、1時間後には俺を思い出しているはず。
そう思っていたけれど、その日はずっと初めましての空気が流れ続けていた。
俺の心とは裏腹に。
*
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