第71章 GIN

ポロポロと涙を溢して絶望するその顔は、俺の脳裏にひどくこびり付いた。

俺が引き金を引けば、涙を流すことも、怖いと叫ぶことも出来なくなる。

そして俺は、その女の顔を見ながらゆっくりと引き金に指をかけた。


そして今度は、一瞬も目を離すことなく命を奪う瞬間が過ぎ去った。

血の匂いが充満し、美しい女の顔から光が消えた。


これで、俺の仕事は終わりだ。
そして、俺の真の闇の始まりだ。

呆気ない。こんなものか。


そう思いながら、室内に残ったわずかな指紋を拭き取り、入った時と同じように玄関に向かった。

そして玄関に置いてあった少し大きな靴に足を入れる瞬間、俺の目から何かが溢れた。


パタッ…


何だ？気付かないうちに返り血が？
そう思いながら頬に触れて手を見ると、そこにあったのは血じゃ無い。

涙だった。


何故、涙が。

同時に昼間にあの少女に言われた

「悲しいの？」

と言う言葉がリフレインする。


そんなわけはない。
これは、やり遂げることができた喜びの涙


そう思って外に出ようとした瞬間



カタン…
一瞬の物音で、俺はハッと夫婦の寝室の方を見た。

まさか、まだ誰かいるのか…