第71章 GIN

やっぱりバカだ
いじめられても仕方ないなこいつは。

そう思いながらタバコを吸おうとポケットに手を突っ込んだ瞬間


「ねぇ、それなあに？
ヒーローになるための教科書？」


そう言いながら、少女は俺が手元に持つ資料を見ようとするので、俺は思わずそれを払い除けた。


「…あっちへいけ」

「…でも」

「でもじゃない。目障りだ。消えろ」


冷たくそう言い放つが、その子供は全く動じずそれどころか心配そうに俺の顔を見つめてきた。


「でも、お兄ちゃん、震えてるよ？
…何か悲しいことあったの？」


そう言って、その子は俺の手を握った。
小さくて、生暖かい、生きている人間の手で。

そしてその小さい手に握られた自分の無骨な手を見ると確かに小刻みに震えている。

俺は悲しいから震えているのか？
武者震いではなく？


「どうして震えてるの？」

「さあな」

「どこか痛いの？」

「…お前、俺が怖くないのか」


たまらずそう尋ねると、その少女はキョトンと目を丸くした後、笑い飛ばしながら言った。


「怖くないよ！だって、わたしのこと助けてくれたでしょ？
ヒーローだよ！」


ヒーロー

そんなもの、なりたいと思ったことは一度もない。
第一俺から1番遠い存在だ。

さっき、いじめっ子を睨んだ目と同じ目でその少女を睨んでみるが、殺気に気付かない少女へは暖簾に腕押しだ。