第71章 GIN

思った以上に鋭く飛んだその小石は、いじめっ子代表格の頭にコンッと当たり、その子供は怒りの矛先を一瞬で俺に向ける。


「誰だよ！！」


そう言って俺の顔を見た瞬間、そして目を見た瞬間、その子供はゾクッと震え上がった。
大人気なくも、鋭い氷のように睨む俺の目は、子供からすれば恐怖以外の何者でもなかったらしい。

まるで幽霊でも見たかのように怯えながら、取り巻きを従えて公園を出て行った。


フ…俺が悪魔だと言うことに気付くとは、なかなか頭のいいガキだな。


謎にそんな風に感心して、また手元の資料に目を落とそうとした瞬間、俺が座るベンチの半分隣に、さっきいじめられていたガキが座る。


「Thank you 」


拙い発音でそう言って、その女の子は笑った。
さっきまで泣いていたくせに、切り替えの早いやつ。
それにこいつは俺が悪魔だと言うことに全く気付いていない。
危機感の薄いバカだ。
だからいじめられるんだ。

そう思いながら俺はそいつに言った。


「いじめられたくなければ、人を見る目をもっと養え。」


日本語で言われた少女は、きょとんと俺の方を見たあと、ぱああっと笑って言う。
日本語を話せるのが嬉しいらしい。


「お兄ちゃんは良い人でしょ？」


バカなガキだ。
良い人がこんな資料を読むと思うか？
良い人が明日誰かを殺す準備をすると思うか？


そんなことを言ったところで、何の意味もないのだが、俺は思わずその少女に言葉を返す。


「極悪人だ」

「ごくあくにん？」

「ああ。」

「ヒーローってこと？」

「…真逆だ」