【R18】You belong with me 【赤井秀一】
第71章 GIN
殺しの前日
俺は公園のベンチに座って、あの方から渡された殺しの指令に関する書類に目を通していた。
暖かい太陽の木漏れ日の下で、まさか人を殺すための手引きを読んでいるとは、到底誰も予想できないだろう。
ページを捲るたびに黒く澱んでいく俺の心とは対照的に、外は眩しいくらいの晴天で、首元にジワリと汗が滲んだ。
ターゲットのシステムエンジニアの夫婦はどちらも日本人らしい。
あの方と古い知り合いで、俺たちの組織が進めようとしている壮大な計画の一部を担っていた人物のようだ。
つまり、あの方と道を違えたから消されるという単純な方程式。
俺はその方程式を完成させるために、明日この手で初めて人の命を奪うわけか。
そう考えた時、目を通していた書類がフルフルと震えた。
地震か?と一瞬勘違いしたが、ふと、自分の手を見ると小刻みに震えていた。
恐怖?
それとも高揚?
この仕事を受けたことを後悔しているのか?
それとも、この仕事を完遂させることで俺と言う真っ黒な悪魔が完成することを喜んでいるのか?
自分の心の中を、自分が一番わからない。
その時だった。
「You suck at English
お前の英語、下手くそなんだよ!」
甲高い声で、誰かが誰かに向かってそう叫び付ける声が聞こえた。
ふと顔を上げると、昼下がりの公園ということもあり、子供が5人ほど見える。
そしてその5人の目線の先にいるのは、1人の女の子。
「肌もイエローだし、お前の父ちゃんも母ちゃんも全員モンキーなんだろ?」
「汚ねえから学校に来んなー!」
そう言って、イエローと呼ばれたその女の子に小石を投げつけた。
その子はじっと下を向いて、言い返しもせずにただ泣いている。
馬鹿馬鹿しい。
アメリカ人だろうが、アジア人だろうが、ヨーロッパ人だろうが、人間なんて所詮ただの骨と肉の塊だ。
中にある臓器は一緒なのに、くだらない。
そう思った俺は、思わずそのいじめっ子達に小石を投げつけ返した。