第71章 GIN

13年前



「お前に最初の仕事をやろう」


俺を呼びつけるや否やそのたった一言と共にあの方が俺に手渡した書類。

そこにはあるシステムエンジニア夫婦の資料が分厚い冊子にまとめられていた。


「最初の仕事…」

「この2人を始末しろ。
…いずれ、この組織にとって邪魔になる存在だ。」


当時俺はまだ18。
闇の世界に足を踏み入れたとすら思っていなかった。

俺たちが考えていることは、正しいと信じて疑っていなかったからだ。

当時の俺は「始末しろ」の意味がすぐには分からなかった。
今思えば可笑しい話だが、俺は馬鹿正直にあの方に尋ねた。


「始末しろとは」

「…」


あの方は黙った後、コト…と机の上に黒い鉛の塊を置いた。


「これで狙いを定め、そして引き金を引け」


つまり、暗殺しろと言うことだとようやく理解した俺だ。

目の前に置かれた、映画や創作物でしか見たことのなかった拳銃を手に取ると、ズシリと重い。

その重さで俺は気付いた。
この拳銃よりもさらに重いものを、俺は奪わなければいけないのか。

人を殺すと言うことが、怖いとは思わなかった。
ただ、その行為で自分という人間がどう変わってしまうのか、それが心に引っ掛かっていた気がする。


俺が、俺でなくなる

そんな気が心のどこかでしていた。


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