【R18】You belong with me 【赤井秀一】
第71章 GIN
ジンside
俺が闇の世界に足を踏み入れたのは、遠い昔
10年以上も前のことだ。
これまで、手にかけてきた人間の数は片手では足りない。
数えようとするだけ無駄になるほど、たくさんの屍を越えてきた。
今や、引き金を引く瞬間、心は1ミリたりとも動かない。
真っ直ぐに相手に照準を定めトリガーを引けば、次の瞬間目の前の人間は目に光を失っている。
その死に顔を見るけれど、その顔も、名前も、最期の言葉も、明日には全て忘れる。
それが俺の日常だ。
そんな俺にも、たった一度だけ
10年以上経った今でも忘れられない殺しがある。
その事実が、冷徹な俺にもまだ人間の心があったのだという気分にさせた。
殺した相手の顔と名前なんざ、いちいち覚えていられない。
そんな口癖を吐く俺が何故その殺しだけは鮮明に脳裏に焼き付いているのか。
なぜならそれは、俺にとって初めての殺しだったからだ。
誰かが言った。
人は100回目は忘れても初めては覚えているものだと。
初めて殴られた瞬間
初めて恋に落ちた瞬間
初めて大事なものを無くした瞬間
初めて誰かと交わしたキス
初めて女を抱いた夜
俺も同じだ。
2回目以降の殺しは微塵も覚えていなくても、初めてこの手を汚したあの瞬間だけは今も鮮やかにこの頭にこびりついている。
まるで、昨日のことのように。
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