第68章 忍び寄る黒い美女　☆

ジン
その宿敵の名前を聞いて、俺はスマホを握る手をぎゅっと強めた。

宮野明美を殺した張本人。
出会った時サラの右肩の負傷もジンにやられたものだ。

そして、サラと身体の関係にあった男…

俺にとって、憎しみが全て詰まっている。それがジンという男だ。


「また、何か動きがあれば共有します。
…あの子を、守ってやってください」

「…安室くん。」

「何ですか？」

「ありがとう」


心の底から、その言葉が出てきた。
これで、サラを守ることができる。
命に変えても…

安室くんは、不服そうに電話の向こうで口を尖らせている。


「別に、あなたのためじゃありません。
僕だって、一度好きになった女性ですから。」

「そうだな。
けど、今は歌が上手な別の誰かに夢中なんだろ？」

「んなっ！！」

「サラから聞いたよ。
過去のことは水に流して、今度食事でも」

「何をバカなことを言っているんです？！？
行　き　ま　せ　ん！！！
切りますね、サヨウナラ！！！！！！！」


ブチッ
ツー…ッツー…ッ


「冗談の通じない男だ」


乱暴に切られた電話を見ながらぽつりとそう溢した俺は、そのままキャメルにメールを打った。


悪いが、二週間ほど灰原哀の警護を頼みたい。
ボウヤには俺が後からメールを入れておく。


たったそれだけのメールに、キャメルは「了解です！」と、即返事をくれた。
理由すら書いていないのに、従順な部下だな…