【R18】You belong with me 【赤井秀一】
第8章 恋をしたのは☆ ♪
わたしはできた傷をハンカチで拭うと、パーティー会場の一つ上の階のラウンジに向かった。
カウンターでキツめのテキーラをショットでもらうと、ホテルから見える夜景を見ながら一気に飲んだ。
「コラ。ちゃんと手当てしないとダメですよ」
「またあなたなの?」
そう言ってその声の主の方を見ると
安室さんが救急箱を持ちながら立っていた。
「ほら、グラス置いて。腕見せて。」
安室さんにグラスを取り上げられたわたしは、しぶしぶ安室さんに腕を見せた。
「出血のわりに傷が浅くて良かったですね」
「だから、大丈夫って言ったじゃない」
「それでも、自分の大事な女性にこんな傷をつけられて、平気な男はいませんよ」
そう言いながら、安室さんはわたしの腕に丁寧に絆創膏を貼った。
「大事な女性か…」
そうつぶやいてまた夜景を眺めた。
光で眩しくて、暗闇なのに、まるで昼間みたいに感じる。
「また同じことで悩んでいるんですか?」
「そうだね。何度も何度も同じループにハマってる。
だって、死んだ人じゃ太刀打ちできないじゃない」
そう言ってまたグラスに口をつけると、安室さんはわたしの髪を指で梳かしながら、言う。
「じゃあ、僕にしておきますか?」
じっと目を見てそんなことを言われると、冗談か本気かわからなくて、わたしは気にも留めていないフリをした。
「それに、彼女との約束、大事に守ろうとしてるみたいだし」
「無視ですか」
「わたし、わかるんだ。
サヨナラも言えずに死んだ人が、どんなに心に残るか。
人生を変えちゃうぐらいの悲劇だってこと。
…だから、勝ち目なんてないじゃない。」
吐き捨てるようにそう言うと、涙が勝手に溢れてくる。
どうしようもない。
だってどうにもできない。
わかるから、苦しい。
わかるから、つらい。
「…勝っているじゃないですか。」
「なにが?」
「だって、あなたは生きてるでしょう。」
安室さんは、わたしの涙を指で拭いながら言った。
「死んだ人間は、生きてる人間には勝てないんですよ。
その人の時間は、止まっているんだから。」