第54章 君に届け　☆

拾い上げる時、この子の名前が見えた。


「橘　弓弦(ゆずる)くん？」

「ハイ…」


弓弦って言うんだ。
綺麗な名前…

そう思いながらも、人の名前を知ったんだから自分も自己紹介をと口を開いた。


「わたしは…」

「知ってます。桜井サラさん…」

「え？」


驚いて目を丸くしたわたしを見て、弓弦くんは端正な顔で少しだけ微笑みながら言った。


「苗字は名札に書いてるし、名前は、たまに安室さんが呼んでるの聞いてたから」

「あー。なるほど。」


そう言われてみればそうか。
一瞬、どうして名前わかるの？と思ったけど、梓さんの名前だってみんな知ってるよね。

と、一人で頭の中で解決して納得していると、弓弦くんがわたしの目をじっと見ながら聞いた。


「…サラさん、英語得意なんすか？」

「得意…というか、住んでたから。アメリカに」

「俺、英語が一番点数悪くて、もし良ければ…教えてくれませんか？…あ、ちゃんとコーヒーもサンドイッチも注文するんで」


「いいよ？他にお客さんもいないし。どれ？」


そう言うと、わたしは弓弦くんの隣の席に腰を下ろし、彼と一緒に参考書を覗き込んだ。