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Black・Rose

第1章 Sign a contract


「我は汝、汝は我」
『ごきげんよう。私』

目の前にいる私の分身の手を取った。美しく靡く髪、優雅な所作、キラキラと輝くドレス。私に似ているとは思えないけれど。

「私の名はアフロディーテ」
『私の名は…』
「いいえ、聞かずとも分かるわ。始めましょう」
『ええ』

分身はキラキラと眩く光った後に、私の一部となった。

「契約はできたようだな」
『どうも、ヘラ』
「イゴールで構わない」
『では、マスターイゴール。私の任務は?』
「ある人物の…破滅だ」
『…分かりました。お受け致しましょう。そのある人物とはどなたですか?』
「いずれ、分かるであろう。素質が輝いているものだ。お前が見ればすぐにでも分かってしまう」

見ればすぐ分かると言われても、間違えていたらどうしよう。

『私、もう行きます。そろそろ時間ですから…』
「そうか。せいぜい、新しい生活を楽しむことだ。プリンセスオブビューティー」
『その呼び方はやめて下さいな。私は美しくなんてない』
「そうかね。まぁ構わない。任務だけこなして貰えば何も言わない」
『分かりました。あなたのご期待に添えるよう、頑張ります』
「頼もしい限りだ。祝杯としては物足りないが紅茶を淹れようか」
『いえ、結構です。時間ですから』

なんとも言えない気持ちになりながら踵を返した。本当はこの空間は私のものではない。恐らく本来のこの部屋の客人の為の造りとなっている筈だ。

「君は3人目のトリックスターだ。その事をゆめゆめ忘れるな」
『3人目…?』

という事は私の他にトリックスターが2人いるということ?

『残り2人のうちの1人が私が狙うべき人物である、という解釈で合っていますか?』
「ああ、そうだ」

じゃあその内の1人が私がピンとくる人物で、もう1人はそうではないという事、ね。

『分かりました。それでは…さようなら。またいつか。マスターイゴール』
「ふふ。そうだな、またいつか」

老人に別れを告げて、鍵の空いた牢屋へと歩みを進めた。そのベッドに横たわり、目を瞑ると景色が青と鎖に染まってしまう。

『んん…ふわぁ…』

目を覚ますと眩しい朝の光が部屋を包み込んでいた。微睡みから上手く醒められず、頭がぽやっとしている。夢のような出来事だけど、夢ではないのだ。

ピピピ…

遅れて鳴ったスマホのアラームを止めて、少し醒めた頭で準備を始めた。
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