第10章 4月26日 社内
疲れているのか。
そう思い巡らせ、小夜子の手の位置が先程から下腹の辺りにあるのに気付いた。
こんな仕草を紀佳もやってた。
『平気。 私の場合ちょっと重いだけだから』
たまに額に汗を浮かばせていた彼女を怜治は心配したものだ。
「……………」
それで定時過ぎまでぎっちり埋まったスケジュールこなして、関係無い他人の面倒まで見に来るとか。
範囲超えてんのはそっちの方だ。
「湊さん、この後の仕事は?」
「ん? あと明日の会議の準備だけだけど」
「じゃ、俺資料買って家でやりたいんで、本屋まで付き合って下さい」
「へ、今から?」
「今から」
「悪いけど……」
「大体分かりましたから。 こっちの事は大丈夫なんで。 助かりました」
そう言い切る怜治が席を立ち、ガタガタと帰り支度を始める。
「表で待ってます」
小夜子の座っていた椅子までご丁寧にとっとと元に戻し、ぽかんと立っている小夜子を追い立てる様にブースを抜ける。
「お願いします。 早く来てくれないと明日に障るんで」
言うが早いか彼女の方に振り向き、念を押してフロア出入口へと向かう。
「……何なの? あれ」
あとにぽつんと取り残された小夜子は、訳が分からないと言った表情で呟いた。
しかし何をしようもなく、とりあえず結局、言われたままに自席へと荷物を取りに戻って行った。