第9章 4月24日 高階家
「紀佳、風呂は」
リビングのソファに座り紀佳がテレビを見ていた。
案の定というか、泰の帰りが遅い。
怜治が先にシャワーを浴び廊下を歩いて通り過ぎようとしたが、半歩戻って彼女の様子を伺う。
「聞こえてる?」
「……ん」
彼女が見ていたのはお笑いの番組だったが、けたたましいのはテレビの音量と画面の中の人間だけで、膝の上に肘をついていた紀佳はまるで景色でも眺めてるかの様にぼんやりとしていた。
『こんなお天気のいい日に、勿体無い』
全くだ。
まだ若い女が休日に閉じこもり、家事して歳のいった旦那の帰りを待ってるだけなんて。
彼女が振り返り、気を取り直した様子で話しかけてきた。
「果物でも食べる?」
「うん。 ホントは紀佳を食いたいけど」