第9章 4月24日 高階家
今日二度目のコンコン、という軽いノックの音が聞こえた。
いつも怜治は返事をしないので、二、三秒後に紀佳がドアの隙間から顔を出す。
「こんな時間まで何も食べないのって、さすがにどうかと思う」
咎める様な彼女の声音にようやく怜治が自室のデスクから顔を上げた。
土曜の午後。
二時を過ぎ、彼女が手にしている盆の上には、野菜がたっぷり入れられた塩焼きそばらしきものが湯気を立てていた。
「……悪い」
急に食欲を思い出した怜治は紀佳と真向かいにテーブルを挟み、ソファに腰をかける。
言われたままに素直に勢いよく麺を啜り始める彼とデスク上の山積みの書籍を、紀佳が呆れたように交互に見比べた。
「泰さんは土曜も仕事、怜治くんも仕事。 ……そういうとこ、泰さんに似たのかなあ」
「俺は別に仕事してる訳じゃない」
「大して変わんないよ。 難しい顔して朝から机に向かって」
やや不機嫌そうな顔を、両手で包み頬杖をつく。
丸い頬が上に持ち上がる無防備な仕草に怜治が苦笑した。
「そっかな」