第8章 4月13日と少し 湊のマンション、社内
彼の言う通り、最近すっかりと忘れていた自分に気付いた。
容器の隅のサラダを口に運びつつ、返信を考えているうちに二通目が届く。
『何か俺、悪いことしたかな?』
そうじゃない。
悪いことも何も、そんな関係じゃない。
正直、面倒だと思う。
そしてそんな自分も、面倒だと思う。
一希に好意を持たれてる事位は分かっていた。
その代わり付き合うなんて匂わせた事は無い。
小夜子がスマホから目を外すと、もう一度振動に気付いて今度は『高階怜治』という文字が画面に現れた。
何となく。
それも見る気が起こらなくなって手持ちのバッグにし舞い込む。
小夜子は恋人を持たない。
しかし一度に複数と関係を持つ事は滅多にない。
そして大概は、自然消滅。
こんな風に答えを返せずに。