第7章 4月13 高階家
「……不毛だな」
小さく独り言を呟きつつ手持ち無沙汰にスマホを手に取り、昨晩の事を思い起こした。
店でやたら慌ててた小夜子の事を思い出す。
あんな彼女を初めて見た。
その後の、消え入りそうな様子も。
多分自分は、ああいう女に弱い。
上手くは言えないが、強いのか弱いのか分かんない様な。
家からわざわざあんなものを持ち出して贈ったりしたのはもしかして、下心があったから、とか?
「怜治くん? どしたの、鞄持ったままぼんやりして」
「何でもない。 もう行くよ」
怜治が紀佳と目を合わさずに慌ただしく玄関先へと向かう。
「今朝は随分はや……あ、行ってらっしゃい!」
明るく呑気な声が追いかけて来る。
小夜子の事をそんな風に思ってしまうのは、多分紀佳のせいだ。
でも、彼女は……どうだろう?
一見そうは見えない紀佳と違い、こんな風に男を振り回す、いかにもそんな雰囲気を持った小夜子。
だが、それ程でもなさそうなのは体を合わせて何となく分かった。
門戸で立ち止まった怜治が素早くスマホの文字を打った。
早目の出社とあって、その後余裕を持った足取りで会社に向かう。