第6章 4月12日 達郎の店
新しく入ってきた男性の客が、小夜子にちらりと目を向け、ごく軽く彼女が微笑んだ。
連れの男に何か耳打ちをしているようだ。
叔父の店に来てくれて邪険に出来ないだけなんだけど、また誤解されたのかも知れない。
ただでさえ派手目な自分の外見は面倒だ。
言動と同じく、見た目にも責任を持たなきゃならないから。
誘ったらすぐにヤレそう、そんな風に思われる。
あの、高階怜治だってそうなんだろう。
『次はこちらが奢ります』
「……次なんか」
何故か泣きたくなった。
もう酔ったのかな?
もう一つ、面倒事を思い付いた。
大人になったら泣きたい時に泣けない。
「この子は僕の姪っ子。 彼氏と待ち合わせで時々来てる」
達郎がさりげなく先程の男性客に小夜子を紹介し、機転を効かせて庇ってくれている。
彼氏という言葉を聞いて落胆した表情の客。
……泣けない。
だって達ちゃんが心配するから。