第6章 4月12日 達郎の店
「……ハナミズキと似てる」
小夜子は手の中にある白色にクリーム色がかった花と、街道の植木を見比べた。
花を型どった、甘い香りのする小さな石鹸。
透明な小箱に入ったそれはプルメリアという南国の花なのだと昼休みにネットで調べて分かった。
オフィス街を飾る木々も白く丸い花弁を枝いっぱいに綻ばせ、定時過ぎの歩道を薄ぼんやりと飾っている。
『こないだはご馳走様でした』
手にあるこれはあの時は気付かなかったけど、作業のついでに怜治がデスクの上に置いて行ったものだった。
「何……お詫びって」
ご馳走様って、どういう意味よ。
あの時。
何故あんなにみっともなく取り乱したんだろう。
今朝の事をいちいち反芻しては、ため息をついて首を振りたくなる。
誰かに会いたい気分では無かった。
かといって、家に一人で居たくもない。
少しの間歩を緩めて考え込んでから、小夜子はもう一度来た道へと戻り始めた。