第5章 4月5日とそれ以前 社内、ある居酒屋
社内で先輩と後輩になり損ねた怜治と小夜子が先日一線を超えたのは、不慮の事故だった。
少なくとも二人とも、そう思っている。
小夜子の方が怜治をよく知っていた。
秋の異動で自分の後任として課に入った彼を何かと気にかけていたからだ。
社内掲示板で彼の名を見る度にチェックをし、彼が困るだろう事は先回りして以前の同僚を通してフォローを入れていた。
それは小夜子の元来真面目な性格のせいもあったが、怜治が有能な人間でもあったからだ。
表立ちはしないが飲み込みが早く、作業も的確だった。
仕事の内容に関する造詣が深く、すぐに外部業者ともほぼ対等に話が出来る様になった。
そんな彼に周りもちらほらと浮き立ち始めるが、本人にはそんな素振りは無く落ち着いた人柄でもあるらしい。
あの子がいる時に、チームとして仕事してみたかったな。
自分が新人の頃から居た思い入れのあった部署だけに、小夜子はたまにそんな事を思った。
ただ若干、気にかかっていることがあった。