第30章 6月11日 社内屋外
小夜子が立ち上がり、自分の残りのチケットを金子に手渡した。
「あの二人は、大丈夫だと思う。 けど、まだこれからも金子くんが見てないと危なっかしいみたい。 これからお家の事も大変だとは思うけど、何かあったらいつでも」
「そりゃ勿論……湊、もう帰んのか?」
「うん。 金子くんも、息抜きは程々にね」
了解、金子のそんな明るい声を背中に聞きながら、小夜子もそろそろ帰り支度をしようと屋内に戻って行った。
ゆくゆくは、いいチームになりそうだと思った。
事業部長の元に、協調性のある金子、合理的な怜治、洞察力のある武井。
エントランス越しの廊下を歩きながら、外の楽しげな人々の笑いや話し声が耳に入る。
思ったよりも色々な人によって助けられている、と自分は思う。
それだから頑張れる。
こんな風に、怜治の事を想えないだろうか。
まだまだ未熟だけれど、彼が困った時にはいつでも支えられる様に。
怜治が私を救い出してくれた様に。
そうなりたい。
屋内の冷たい蛍光灯に交ざり、外の暖色の灯りが床を彩って、早足で歩を進める小夜子を急かす様に道標を作る。
スマホを取り出すと怜治からのメッセージがあった。
社内では最近、開いていなかった事に気付いた。
『お疲れ様。 店には何時頃に行ったらいい?』
9時過ぎに、そう送ると直ぐに返信が来た。
『分かった』
思ったより遅くなってしまったので、一旦家に戻る時間が余りない。
化粧と髪を直したら、何とか。
そんな事を考えながら小夜子は慌ただしくエレベーターホールに向かった。