第29章 6月6日 ホテルのバスルーム
ベッドの中で、クッション代わりにした枕の上に組んだ腕と頭を置き、一緒に暮らすのもいいかもね、そう冗談交じりに言ってみた。
「金銭的には合理的で良いかもだけど、それは無理」
特に表情を変えずに怜治に断られ、一瞬困惑した。
そんな小夜子を見て、そういう意味じゃない、と彼が腕を伸ばして抱き寄せる。
「今そうなると、俺、小夜に甘えてしまいそうだから」
「そんなの、いいのに。 一人暮らしだって単に私の方が年数が長いだけで」
「うん。 きっと小夜ならそうするんだろうな。 だから余計に」
「私は怜治を駄目にする?」
「そうじゃない。 単に今の俺が色々至らないだけ。 ちゃんと小夜に釣り合う様になってからそうしたいだけ」
分かるような気もするし、分からないような気もする。
何かが出来なくても怜治は怜治だ。
道ばたにある雑草も、温室の中の百合の花も、その特質はそれぞれのもの。
至らないなんて、思う事ない。