第22章 6月6日 湊のマンション、レストラン
「違う。 だって、何とも思わなかったから。 むしろ今日の達っちゃんたちを見て、嬉しくて幸せだったから」
会社の非常階段で、達郎の婚約の事を聞いた時は確かに驚いたが、それについてショックだと思わなくなっていた自分に気付いた。
そしていつしかそう思える様になったのは、目の前にいる怜治のせいだ。
達郎から自立しようとした。
それでも孤独は怖かった。
あんなに自分がこだわっていた『借り』の正体。
そんなものを気にし過ぎる程に怜治に惹かれていた事。
それでも、いくら惹かれても怜治に対する気持ちに自信がなかった。
だって受け入れてくれるなんて思ってなかった。
俯いていた小夜子がごく小さな声で呟いた。
彼女の顔が赤く染まっていた。
「……別の意味で貸してもらっていい?」
「もちろん、どうぞ」
そろそろと怜治に近付くと、彼が軽く腕を広げたので小夜子は大きく一歩を踏み出し、吸い込まれる様に身を重ねた。
そんな彼女をすっぽりと包み、緩く小夜子を囲む感じで玲治が自身の両手の指を組んだ。