第21章 6月1日 高階家、社内
暗い雲間からバラバラと落ちてくる雨。
アスファルトに次々に現れる水紋はそれを受け切れず、いくつもの水の流れを作り浅い水溜まりが出来ていた。
跳ねて靴が濡れるのも介さずに、傘をさした怜治は陽の落ちかけた帰路を歩いていた。
最悪だ、怜治が呟く。
考え過ぎた挙句の、自分のあの言動は軽率で悪手だった。
小夜子は平気だろうか。
『もう、放っといて』
あんな風に動揺して突き放す彼女を見たのは初めてだった。
小夜子の達郎への気持ちも知らないふりをしておくつもりだった。
いつかの彼の店での小夜子の口振りから、知られたくなんて無い事は分かっていた。
あの様子から想像するに、達郎の結婚がショックだったんだろう。
自分の存在など、彼女にとってはやはりその他大勢。
彼女からの連絡はもちろんなく、そのためにこちらからも出来ない。
『何にしろ、他人がどうこう出来る事じゃないですよ』
武井の言う通りだったんだ。
無理強いするつもりなど無い。
けれど、小夜子の言う通りに放っておいたら、終わってしまう。
「むしろ……」
気持ちを伝えて結果、こうなったんなら受け入れるべきはこっちなのか。
折り合いをつけるべきなのは俺の方だろうか。