第21章 6月1日 高階家、社内
「うちが国内外に社員を行かせるのは、こういう手合いから彼らを守る理由もある」
「………………」
「家族や恋愛、本人のプライバシーに関する中傷。 よくある事だ。 今井くん、彼も優秀だからね。 この手のやっかみが酷かった。 その中にはきみとの事もあった。 湊さんは無関係だから言わないで欲しい、と本人には言われたが」
『脈が無いって分かって』
確か今井はそう言っていた。
「特に女性はターゲットになりやすい様だ。 知ってると思うが、うちには社内恋愛を縛る規則は無い。 個人的には人間的に成長する、プライベートが充実する恋愛、大いに歓迎」
「ただ、公的には相応しくないと」
「それだけだ」
いずれにしろ、火の立たないところに煙は出ない。
「自粛致します」
「うん。 申し訳ない。 きみの業務に支障が出る位なら赴任云々だろうが、いざという時には私は協力は惜しまないつもりだ」
「……ありがとうございます」
「それはこちらの台詞だよ。 済まないね」
新人の頃から世話になっている部長にこんな事で手を煩わせて、自分の方こそ申し訳無いと小夜子は恐縮した。
「あの、この事は高階くんには……」
「言わないよ」
ほっとした表情の小夜子を見て、部長が穏やかに目を細めた。
深く一礼をしてその室を後にする。
残された事業部長はしばらく椅子から動かず腕を組んでいた。
「まとめて警察にでも、突き出してやりたいんだがな……」
そして何かを思い付いたように会議室内の内線を手に取る。
「……お疲れ様です。 広報課ですか」