第16章 5月15日 病院
診察室付近に戻ると、奥さん目覚められましたよ、と先程とは別の看護師に声を掛けられた。
そういう風に見られても仕様がない。
否定するのも面倒で、怜治は再び診察室に入っていった。
「ごめんね。 ……迷惑かけて」
「そんな事、気にすんな」
いつもより、弱々しそうな声で謝る紀佳を気遣う。
「こっちこそ、気付いてやれなくてごめん」
「ううん、私のせい。 泰さんには…」
「連絡入れといた。 早く帰るって」
「そうなの」
「しばらく休んで、帰れるって」
「うん、聞こえた。 寝ながら何となくだけど」
紀佳の頭に手をやると、彼女の小さな指先がそれを包んだ。
「ずっと気になってたんだけど、怜治くんが家を出るのは私のせい?」
「……どっちかというと、腹ん中の子供のためかな」
「どうして?」
「でかい子供が家に二人居たらホントの子供が寂しがるだろ?」
「何、それ」
ふふ、と紀佳が笑った。