第14章 4月29日 高階家
そんな二人をもう一度振り向いてから、怜治が階段を登り自室へと向かう。
ドアのノブを引いて明かりを着ける前に、自分の顔に違和感を感じた。
「…………?」
濡れて……
不思議に思い頬に手で触れるとやはり流れ出ていた。
泣いた事なんか、今まで。
「はは……」
別に悲しい訳では無かった。
ただ色んなものが胸に溢れた。
泰の、父親の事。
紀佳の事。
愛情、憎しみ、寂しさ、それらが自分の中で過去になっていく。
産まれてくる子供の事。
これからの彼らの未来。
心は動く。
「小夜子」
先程まで会っていた彼女にまた会いたかった。
もしも彼女があのままで変わらないのだとしても。
「好きだ……」
言葉にすると現実味を帯び、彼の内で立ち上がり歩き出す。
例えまた虚しいものでも構わない。
俺は彼女を好きになってしまったのだから。