第12章 4月27日 会議室、社内
そんな彼が席に戻っていく姿を眺めながら、そういえば二年程前に、彼に告白された事を思い出した。
まさか、あれからずっと?
社内の人間だから婉曲に断った筈だが、それが良くなかったのかも知れない。
頭が良く温和で、多分、結婚でもするのならああいう人がいいのだろう。
『大丈夫?』
『見ないから』
ふいに、小夜子の頭に怜治が浮かんだ。
『ありがと』
『確かに』
律儀で、静かで。
『咥えてよ』
顔が熱くなった。
最初、あんな風に抱かれた嫌悪感を、いつの間に、何処に置いてきたのだろう?
『謝りたくて』
『風邪引く』
熱くて、そして優しい。
彼にはいくつもの、顔がある。
それでも、自分が彼を誘ったのは信頼からだ。
彼は嘘は付かない。
ヘマはしない。
おそらくは大概の場面で。
自分さえしっかりしていれば、間違いなんてもう起こらない。
達郎とは全くタイプが異なるというのに、どことなく似ていた。
あの夏の日の様な、熱と質量。