第5章 苛立ち
不死川さんは涙する私をじっと待ってくれた
時折背中をさすってくれる
落ち着いた頃には夕方になっていた
「もぉ遅いうちに泊まっていけ」
泣き止むと共に不死川さんはそういった
「え、でも」
「胡蝶には鴉飛ばしとく」
「飯の準備するから待ってろ」
不死川さんは私を置いて厨へと行ってしまった
残された私はあれだけ泣いて恥ずかしくなってきた
「〜〜っふ、不覚っ!」
人前で泣くことをしなかったのに
まさか不死川さんの前で気が緩んでしまうとは
そう思いながら顔に手を当てていると厨の方からいい香りがしてくる
少しだけ覗きに行こうと静かに部屋を出る
厨には不死川さんが夕飯の支度をテキパキと行っていた
不死川さん料理するんだ
私は驚いた
それもそうか一人で住んでるんだから毎日外食とはいかないだろう
陰で見ていると不死川さんが気付いて手招きする
私は照れ臭くて渋ったがしつこく手招きするので仕方なく不死川さんの隣に立つ
「ん」
「?」
「味見」
そう言って小皿を差し出され一口啜る
「!美味しい!」
「よかった」
不死川さんは安心したかのように続きを作り始める
その様子を隣でじっと見つめる
「見過ぎだぁ」
「手招きしたのは不死川さんですよ」
「だからって見過ぎだろ!穴が開きそうだ」
穴が開くってふふっと笑えば「笑うな」とコツンと頭に拳を当てられた
夕食の準備ができ居間の机に並べる
美味しそう
味見をした時点で美味しかったのだ
間違いないだろう
「いただきます」
手を合わせて箸を手に取る
大根を一つ小さく切って口に運ぶ
ほろりと口の中で解ける
大根苦味はなく抜群の味付けだ
「おいしぃ」
思わず口を手で押さえた
「そりゃよかったよ」
「不死川さんお料理上手なんですね」
「そぉか?」
「私料理は全くダメで...アオイちゃんのご飯を毎日頂いてるから」
「料理しねぇのか」
「はい」
「おまえにも苦手なものあんだな」
不死川さんは楽しそうに笑った
私も釣られて笑った