第5章 苛立ち
「それは...言わなきゃいけねぇのかよ」
「言わないとわからないこともあります」
はぁと再びため息をする
「おまえが誰かれ構わずついて回るのが気になるんだよ」
「え?」
「誰にでもニコニコしやがって」
「八方美人とでも言いたげですね」
「似たようなもんだろぉ」
「まぁ」
私は心外だった
「好きでニコニコしてるわけじゃありませんよ。私だって怒る時はありますし、嫌なことは嫌と言います。ニコニコしてないとやってられないんですよ」
「?」
「捨てられないように、相手の機嫌伺って窮屈に生きてきた」
「... ...」
「捨てられるのが怖いから...」
私の意思とは反して涙が溢れ出る
「俺は捨てたりしねぇよ」
不死川さんは私に近付き涙を拭く
「俺だけじゃねぇ。胡蝶も、皆んな捨てたりなんかしねぇ」
「...っ、」
「今みたいに自分の気持ちちゃんと伝えろよ」
初めてこんなに自分の気持ちをぶつけた
ずっと一緒にいたしのぶさんにもカナエさんにも言えなかった
不死川さんには何故かぶつけられた
「俺にはぶつけられてんじゃねぇか」
よしよしと慰めるように優しく撫でてくれる
いつだったかカナエさんもそうしてくれた時があった
『みずきはもう少し自分の気持ちを相手にぶつけてもいいのよ』
「カナエ、ねぇさん...っ」
ポロポロと涙が流れてくる
居なくなってから初めてねぇさんと呼んだ
呼んでいいものか、呼んだら拒絶されるのではないかと怖かった
私は
臆病者だ