第16章 再会
当然返事が返ってくることはなく、昼間とは打って変わって静まり返った夜闇に杏寿郎の囁きは消えていく。
夜闇……と言っても鬼殺隊剣士として鬼を退治して回っていた頃とは違い、街灯が夜道を照らしているので恐怖を感じるほどの暗さではない。
「今だからこそ言えるのだが、不死川は奥方と出会うまでのことが好きだったんだ。君と俺が目の前で仲良くするものだから、その憂さ晴らしに付き合ったこともあったな」
「え?!そうなの?!実弥お兄ちゃん、お母さんのこと好きだったの?!」
縁側で1人思い出話を吐露していると、思わぬ人物にそれを聞かれてしまった。
「朱莉か!よもや君に聞かれるとは思いもしなんだ!これは俺が向こうに行った時に不死川にどやされるやつだな!」
静かな声音から一変、朱莉にとってお馴染みの覇気のある声音が鼓膜を震わせ、思わず頬をほころばせた。
「母親に言うのも可笑しいかもしれないけど、お母さんって可愛らしい人だったもんね。いつもニコニコふわふわしてて怒った顔なんて見たことなかったもの」
いくら記憶を辿っても険しい表情は見当たらず、亡くなるその時まで微笑んでいたくらいだ。
朱莉が頬を綻ばせている横で、1度だけに怒られた時の事を杏寿郎が口にしようとした時、再び部屋の入口に人影が現れた。