第15章 理由
自分を呼ぶ声は静かながらも優しく温かい…… の大好きな声音だ。
その声には間髪入れずに反応し、体を反転させて首元に抱き着きにいった。
「大好きです。こんなにも心から愛しいと想える人と出逢えた私は誰よりも幸せ者です。杏寿郎君、前言撤回します。辛い時は涙を流して側に来て下さい。杏寿郎君に甘えて悲しい気持ちを我慢させてしまっていましたよね」
いつの日か杏寿郎に願ったこと。
笑顔でいて下さい。
その言葉が杏寿郎の枷になっているのではと思っての言葉。
きっと鬼殺隊時代のなら今と同じ状況になっていれば涙を流していたはずだ。
しかし今のは涙を流していない。
母となり強くなったのも要因の一つだろうが、何より今は杏寿郎の心の奥にあった痛みを癒したい気持ちが強いのだろう。
そんなの胸中を感じ取った杏寿郎は1度ギュッと抱き締め直した後、脇に手を差し入れて勢いよく立ち上がった。
「俺はの笑顔が大好きだ!出会った頃から変わらない愛らしい笑顔が俺の笑顔の源だ!君が笑顔でいてくれているから、俺も笑顔でいられている!今まで1度たりとも無理に笑ったことはない!」