第12章 好きなもの
そうして杏寿郎が店員へ注文を終えてへ視線を戻すと、緊張して表情と体をガッチリ固める姿が目に入った。
それでもやはり珍しい店の雰囲気は気になるようで、ぎこちないながらも視線をあちこちにさ迷わせては時々顔を綻ばせている。
しばらくその姿を愛でていると、自分に何か言いたそうにがキリッとした表情を向けてきた。
よくもまぁここまで表情を変えられるものだと心の中で感心しながら首を傾げてその意味を問う。
するといきなりは顔を真っ赤にして両手で隠してしまった。
「何があった?!可愛らしい店員さんでもいたのか?」
「い、いえ!あ、店員さんは皆さん素敵に違いありませんが……今の杏寿郎君のお顔が私の心をくすぐりまして……思わず」
特に意識してした訳ではない杏寿郎はキョトンとなるも、顔の熱を発散させようと手で扇いでいるを見て珍しくほんの少し頬を染めて照れ笑いを零した。
「突然そう言われると照れるな!だが君にそう思って貰えたなら嬉しい限りだ!して……何か聞きたいことがあったのではないか?」
「危うくニヤケてしまう1歩手前までいきました」
緩む口元を引き締めるように軽く頬を両手でパチンと叩くと、いつも通りの笑顔でようやく聞きたかったことを口にする。
「杏寿郎君の素敵な表情に忘れるところでした!茉莉花(マツリカ)茶とはどのようなものですか?お花が入っているのでしょうか?」