第12章 好きなもの
「能楽……とはどういったものでしょうか?」
「そうだな……演劇のようなものと言えば分かりやすいだろうか?楽器や詩に乗せて1つの物語を進めていくものだ。舞踊もあるので見ていて……」
言葉の途中での顔を見ると、いかにも興味津々といったキラキラした表情をしていた。
聞かなくても顔が
『行きたいです!』
と物語っている。
「ハハッ、は分かりやすいな!少し歩くので休憩を挟みながら向かおうか。途中、辛くなれば遠慮なく言いなさい。どうしても今日でなくてはいけないと言うわけではないからな」
期待に紅潮した頬を軽くつまんでフニフニしても、初めての能楽に興奮しているは全く意に介せずされるがままニコニコしている。
「はい!無理はしない、何かあればすぐに報告する!と皆さんとお約束しましたのでご心配には及びません!この子と私の初能楽です!そうと決まりましたら……杏寿郎君、準備を致しましょう!」
つい先ほどまで微睡んでいたはずのは驚くほどの勢いで起き上がり、杏寿郎の手を握って早くと言わんばかりにグイグイと引っ張り出した。
明らかに妊婦の動きではないに苦笑いを零しながらも、杏寿郎はその手に抗うことなく素早く布団から起き上がり準備を始めた。