第10章 ※湯けむり旅情
「俺も風邪を引いたことがないので分からないが、辛いらしいので気にならなくていいと思うぞ?まだまだ初日だ、ここの温泉地の後も南下して新たな温泉地へ赴く!体調はしっかり整えておかなくてはな!」
声の張りがよくなるに伴って気合いが入ったのかを抱きすくめる腕に力が入り、それが嬉しいと言わんばかりにはその腕に頬を当て体を預けた。
「はい!確か有名な武将ゆかりの温泉地でしたよね?私、計算や読み書き以外の知識がほぼないので……名前を伺ってもピンとこなくて」
あの屋敷で奥方に教えて貰えたのは生きる上で最低限必要な知識のみだ。
後は強制的にさせられていた家事を一通りこなせるものの、それ以外は子供の時の知識のままなので人より知らない事実にシュンと項垂れる。
「知りたいのならば教えてやる!どんな事も始めるのに遅いということは無いからな!だがは他の人たちより剣術や体術が優れているだろう?人には得手不得手があるので落ち込む必要はない。知らなければ知ればいいだけだ」
右肩付近から聞こえてくる杏寿郎の声はやはり優しく、抱きすくめる力も先ほどより柔らかになりの心は軽くなって笑顔が戻った。