第6章 第26章 月と太陽 1873ページより
「んっ……んんーー!」
すぐ近くに天元や門下生たちがいる状況下での口付けに大いに戸惑ったは、杏寿郎の襟元をギュッと掴んで力の抜けそうになる体を必死に支える。
背に回された腕はそんなの反応を楽しむように強くなり、そろそろ気絶するのでは……と思う頃になって杏寿郎はようやく口付けと腕から解放してやった。
「身悶えるだけでは終わらなかったのだ。驚かせてすまない」
ほんの少し抗議しようとしていたのに、眉と目尻を下げた表情で謝罪されてはからそんな気は遥か彼方へと吹き飛ばされてしまう。
「口付けは嬉しいのです。少し恥ずかしかっただけで……大丈夫です。その……やっぱり杏寿郎君のお側にいられて私は幸せだなって思いました」
天元に聞かれてしまうと言う同じ失敗を繰り返すまいと、は杏寿郎にさえ辛うじて聞こえるくらいの小声で囁き、ふわっと柔らかな笑みを浮かべた。
「また君は俺の理性を軽々と吹き飛ばすようなことを言ってくれるな。このまま部屋に連れ込みたいが……それは後での楽しみにとっておくことにする。……湯も沸いたようだしな!」
ハッと我に返り振り返ると、鍋に入れて火にかけていた水は既に熱湯と化し大きな泡をぶくぶくと激しく発生させていた。