第1章 ※月夜の軌跡 9章
そばへと願う杏寿郎の声が愛おしく、は吸い寄せられるように広げられた腕の中へと身を滑らせ、胸元へと頬をピタリと付けてホッと息を零した。
(和んでしまった。今から浴衣を脱がされるというのに……相変わらず無防備だな)
だが、こんな無防備な姿は自分しか知らないのだと思うと、言いようのない嬉しさが杏寿郎の胸の中で溢れ返り、少し汗ばんでいる背中を抱き寄せる。
「こうしていればあまり恥ずかしくないだろう?そのまま、俺にもたれかかっていてくれ」
がコクリと小さく頷くと、帯が杏寿郎の手によってゆっくりと解かれ、押さえるもののなくなった浴衣は衣擦れの音を静かな部屋に響かせながら、やがての体からスルリと滑り落ちていく。
それを感じ取ったはどうすればいいのか分からず、助けを求めるように杏寿郎の顔を見上げると、ニコリと優しい笑みを向けられ、抱き寄せたままの格好で布団へと横たえさせてくれた。
(どうすればいいのでしょうか?浴衣を脱がせていただいたのだから、杏寿郎君の下着を私が……?)
悩みながら下へと視線を動かすと互いに下着だけという不思議で非現実的な光景がの瞳に映った。