第4章 繋ぎとめる理由
付き合って三年目の記念日、やっぱり彼は来なかった。
豪華なご飯と彼の好きな酒の置かれたテーブルは、日を越してしまうと酷く寂しく見える。
「…まあ分かってたけど」
そう言って冷めて硬くなったローストビーフを口にした。
私の恋人の相澤消太はプロヒーローで雄英高校の教鞭も取っている。
私は彼の後輩で三年前からお付き合いをしていた。
プロ―ヒーローと教師どちらもこなす彼はとても多忙で、付き合ってからもお互いの時間をどうにかすり合わせて会っていた。
覚悟してた。
彼が私の事が好きだって実感できるなら我慢できると思ってた。
だけどそんな付き合い方も三年を迎えて私の心は揺れていた。
ぼんやりとソファに座っていると携帯電話が鳴る。
「悪い、急な仕事で行けなくなった。埋め合わせはする」
短い文章で綴られたそれを見てため息が出る。
「事後報告ね、しかも電話じゃなくてメール…」
きっと緊急事態でまた呼ばれたりしたんだろう。頭ではそう理解できても心はこじれたままだった。
私はそのメールを閉じて、別の連絡先を開いた。
「あ、もしもしひざし先輩」
電話をかけるといつもの明るい声で返事が返ってくる。
「お前か!元気か日向!」
「元気ですよ、今日って何してるんですか」
私がそう聞くとひざし先輩は事細かく今日の予定を教えてくれた。
先輩の仕事の終わる夜に一緒に呑む約束をして電話を切る。
相澤先輩との関係に疑問を抱き始めてから、私はかつての先輩だった山田ひざし先輩と時折飲みに行くようになっていた。
ひざし先輩は明るくて、勝手に話していてくれるし案外優しい人だった。
_________
「お前また消太となんかあったんだろ」
ひざし先輩はそう言って私の手から日本酒を取り上げる。
「…別に何もないですよ、記念日すっぽかされただけで」
私がそう言って机に項垂れると、ひざし先輩は私の頭をポンポンと撫でた。
「まあ、あいつ最近バタバタしてたからなあ…許してやれよ」
そう言って彼を庇う姿になんだか少し腹が立った。